囀x|潜《くぐ》りを潜る所で、まず黒の山高帽がヌッと入って、続いて縞のズボンに靴の先がチラリと見えたかと思うと、渋紙色した髭面《ひげつら》が勃然《むッくり》仰向《あおむ》いたから、急いで首を引込《ひッこ》めたけれど、間に合わなかった。見附かッちゃッた。
お帰り遊ばせお帰り遊ばせ、と口々に喋々《ちょうちょう》しく言う声が玄関でした。奥様――も何だか変だ、雪江さんの阿母《かあ》さんの声で何か言うと、ふう、そうか、ふうふう、という声は主人に違いない。私の話に違いない。
悪い事をした、窓からなんぞ覗くんじゃなかったと、閉口している所へ下女が呼びに来て、愈《いよいよ》閉口したが、仕方がない。どうせ志を立てて郷関を出た男児だ、人間到る処で極《きま》りの悪い想いする、と腹を据えて奥へ行って見ると、もう帰った人は和服に着易《きか》えて、曾て雪江さんの阿母《かあ》さんが占領していた厚蒲団に坐っている。私は誰でも逢いつけぬ人に逢うと、屹度《きっと》真紅《まっか》になる癖がある。で、此時も真紅《まっか》になって、一度国で逢った人だから、久濶《しばらく》といって例の通り倒さになると、先方は心持首を動かして
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