ネお》すと、雪江さんが、矢張《やっぱり》窓の下の方が好《い》いという。で、矢張《やっぱり》窓の下の方へ据えた。
 早速私が書物を出して机の側《そば》に積むのを見て、雪江さんが、
「本箱も無かったわねえ。私《あたし》ン所《とこ》に|二つ《ふたツ》有るけど、皆《みンな》塞《ふさ》がってて、貸して上げられないわ。」
「なに、買って来るから、好《い》いです。」
「そんならね、晩に勧工場《かんこうば》で買ってらッしゃいな。」
「え?」と私は聞直した、――勧工場《かんこうば》というものは其時分まだ国には無かったから。
「小川町《おがわまち》の勧工場《かんこうば》で。」
「勧工場《かんこうば》ッて?」
「あら、勧工場《かんこうば》を知らないの? まあ! ……」
 と雪江さんは吃驚《びッくり》した面《かお》をして、突然破裂したように笑い出した。娘というものは壺口《つぼくち》をして、気取って、オホホと笑うものとばかり思ってる人は訂正なさい。雪江さんは娘だけれど、口を一杯に開《あ》いて、アハハアハハと笑うのだ。初め一寸《ちょっと》仰向《あおむ》いて笑って、それから俯向《うつむ》いて、身を揉《も》んで、胸を
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