A骨を折ったから増《まし》を呉れという。余所の車は風を切って飛ぶように走る中を、のそのそと歩いて来たので、些《ちッ》とも骨なんぞ折っちゃいない。田舎者《いなかもん》だと思って馬鹿にするなと思ったから、厭だといった。すると、車屋は何だか訳の分らぬ事を隙間もなくベラベラと饒舌《しゃべ》り立って、段々大きな声になるから、私は其大きな声に驚いて、到頭言いなり次第の賃銭を払って、東京という処は厭な処だと思った。
 車屋との悶着を黙って衝立《つッた》って視ていた女が、其が済むのを待兼《まちかね》たように、此方《こっち》へ来いというから、其跟《そのあと》に随《つ》いて玄関の次の薄暗い間《ま》へ入ると、正面の唐紙を女が此時ばかりは一寸《ちょっと》膝を突いてスッと開けて、黙って私の面《かお》を視る。私は如何《どう》して好《い》いのだか、分らなかったから、
「中へ入っても好《い》いんですか?」
 と狼狽《まごまご》して案内の女に応援を乞うた時、唐紙の向うで、勿体ぶった女の声で、
「さあ、此方《こちら》へ。」
 私は急に気が改まって、小腰を屈《こご》めて、遠慮勝に中へ入った。と、不意に箪笥や何や角《か》や沢
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