勝の、割の悪いものだから、勝気の祖母はこれが悔しくて堪《たま》らない。それで、何の、女でこそあれ、と気を張る。気を張て油断をしなかったから、一生人に後指《うしろゆび》を差されるような過失はなかった代り、余り人に愛しもされずに年を取って了って、父の代となった。
父は祖母とは全《まる》で違っていた。如何《どう》して此人の腹に此様《こん》な人がと怪しまれる程の好人物で、面《かお》も薩張《さっぱ》り似ていなかった。大きな、笑うと目元に小皺《こじわ》の寄る、豊頬《ふっくり》した如何《いか》にも愛嬌のある円顔で、形《なり》も大柄だったが、何処か円味が有り、心も其通り角《かど》が無かった。快活で、蟠《わだかま》りがなくて、話が好きで、碁が好きで、暇《ひま》さえ有れば近所を打ち歩き、大きな嚏《くしゃみ》を自慢にする程の罪のない人だった。祖父が矢張《やっぱり》然うであったと云うから、大方其気象を受継いだのであろう。
父は此様《こん》な人だし、母は――私の子供の時分の母は、手拭を姉様冠《あねさまかぶ》りにして襷掛《たすきが》けで能《よ》くクレクレ働く人だった。其頃の事を誰《たれ》に聞いても、皆|阿母《
前へ
次へ
全207ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング