轤オく思われてならぬ。私が余《あんま》りポチばかり可愛がって勉強をしなかったから、父が万一《ひょっと》したら懲《こら》しめのため、ポチを何処かへ匿《かく》したのじゃないかと思う。そうすると、今の啼声は矢張《やっぱり》ポチだったかも知れぬと、うろうろとする目の前を、土耳其帽《トルコぼう》を冠《かぶ》った十徳姿の何処かのお祖父《じい》さんが通る。何だか深切そうな好《い》いお祖父《じい》さんらしいので、此人に聞いたら、偶然《ひょっ》とポチの居処《いどころ》を知っていて、教えて呉れるかも知れぬと思って、凝然《じっ》と其面《そのかお》を視ると、先も振向いて私の面《かお》を視て、莞爾《にッこり》して行って了った。
 向うから順礼の親子が来る。笈摺《おいずる》も古ぼけて、旅窶《たびやつ》れのした風で、白の脚絆《きゃはん》も埃《ほこり》に塗《まぶ》れて狐色になっている。母の話で聞くと、順礼という者は行方知れずになった親兄弟や何かを尋ねて、国々を経巡《へめぐ》って歩くものだと云う。此人達も其様《そん》な事で斯うして歩いているのかも知れぬ、と思うと、私も何だか此仲間へ入って一緒にポチを探して歩きたいような
前へ 次へ
全207ページ中63ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング