Oへ迎えに出ている。私を看附《みつけ》るや、逸散《いっさん》に飛んで来て、飛付く、舐《な》める。何だか「兄さん!」と言ったような気がする。若し本包《ほんづつみ》に、弁当箱に、草履袋で両手が塞《ふさ》がっていなかったら、私は此時ポチを捉《つか》まえて何を行《や》ったか分らないが、其が有るばかりで、如何《どう》する事も出来ない。拠《よん》どころなくほたほたしながら頭を撫《な》でて遣るだけで不承《ふしょう》して、又歩き出す。と、ポチも忽ち身を曲《くね》らせて、横飛にヒョイと飛んで駈出すかと思うと、立止って、私の面《かお》を看て滑稽《おどけ》た眼色《めつき》をする。追付くと、又逃げて又其|眼色《めつき》をする。こうして巫山戯《ふざけ》ながら一緒に帰る。
 玄関から大きな声で、「只今!」といいながら、内へ駈込んで、卒然《いきなり》本包を其処へ抛《ほう》り出し、慌《あわ》てて弁当箱を開けて、今日のお菜の残り――と称して、実は喫《た》べたかったのを我慢して、半分残して来た其物《それ》をポチに遣《や》る。其れでも足らないで、お八ツにお煎を三枚貰ったのを、責《せび》って五枚にして貰って、二枚は喫《た》べ
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