U昇降口へ吸込まれて、此処で又|紛々《ごたごた》と入乱れ重なり合って、腋の下から才槌頭《さいづちあたま》が偶然《ひょっ》と出たり、外歯《そっぱ》へ肱が打着《ぶつ》かったり、靴の踵《かかと》が生憎《あいにく》と霜焼《しもやけ》の足を踏んだりして、上を下へと捏返《こねかえ》した揚句に、ワッと門外《もんそと》へ押出して、東西へ散々《ぢりぢり》になる。
仲善《なかよし》二人肩へ手を掛合って行く前に、弁当箱をポンと抛《ほう》り上げてはチョイと受けて行く頑童《いたずら》がある。其隣りは往来の石塊《いしころ》を蹴飛ばし蹴飛ばし行く。誰だか、後刻《あと》で遊びに行《い》くよ、と喚《わめ》く。蝗《いなご》を取りに行《い》かないか、という声もする。君々と呼ぶ背後《うしろ》で、馬鹿野郎と誰かが誰かを罵《ののし》る。あ、痛《い》たッ、何でい、わーい、という声が譟然《がやがや》と入違って、友達は皆道草を喰っている中を、私一人は駈脱《かけぬ》けるようにして側視《わきみ》もせずに切々《せっせ》と帰って来る。
家《うち》の横町の角迄来て擽《くすぐッ》たいような心持になって、窃《そッ》と其方角を観る。果してポチが門
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