ニ駆出し、声の聞えない処まで来て、漸くホッとして、普通《なみ》の歩調《あしどり》になる、而《そう》して常《いつ》も心の中《うち》で反覆《くりかえ》し反覆し此様《こん》な事を思う、
「僕が居ないと淋しいもんだから、それで彼様《あんな》に跟《あと》を追うンだ。可哀そうだなあ……僕《ぼか》ぁ学校なんぞへ行《い》きたか無いンだけど……行《い》かないと、阿父《おとっ》さんがポチを棄《す》てッ了《ちま》うッて言うもんだから、それでシヨウがないから行《い》くンだけども……」
十五
ジャンジャンと放課の鐘が鳴る。今迄静かだった校舎内が俄《にわか》に騒がしくなって、彼方此方《あちこち》の教室の戸が前後して慌《あわた》だしくパッパッと開《あ》く。と、その狭い口から、物の真黒な塊りがドッと廊下へ吐出され、崩れてばらばらの子供になり、我勝《われがち》に玄関脇の昇降口を目蒐《めが》けて駈出しながら、口々に何だか喚《わめ》く。只もう校舎を撼《ゆす》ってワーッという声の中《うち》に、無数の円い顔が黙って大きな口を開《あ》いて躍っているようで、何を喚《わめ》いているのか分らない。で、それが一
前へ
次へ
全207ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング