~いて遣った――は好かったが、其晩一晩|啼通《なきとお》されて、私は些《ちっ》とも知らなんだが、お蔭で母は父に小言を言われたそうな。

          十三

 犬嫌《いぬぎらい》の父は泊めた其夜《そのよ》を啼明《なきあか》されると、うんざりして了って、翌日《あくるひ》は是非|逐出《おいだ》すと言出したから、私は小狗《こいぬ》を抱いて逃廻って、如何《どう》しても放さなかった。父は困った顔をしていたが、併し其も一|時《じ》の事で、其中《そのうち》に小狗《こいぬ》も独寝《ひとりね》に慣れて、夜も啼かなくなる。と、逐出《おいだ》す筈の者に、如何《いつ》しかポチという名まで附いて、姿が見えぬと父までが一緒に捜すようになって了った。
 父が斯うなったのも、無論ポチを愛したからではない。唯私に覊《ひか》されたのだ。私とてもポチを手放し得なかったのは、強《あなが》ちポチを愛したからではない。愛する愛さんは扨置《さてお》いて、私は唯|可哀《かわい》そうだったのだ。親の乳房に縋《すが》っている所を、無理に無慈悲な人間の手に引離されて、暗い浮世へ突放《つきはな》された犬の子の運命が、子供心にも如何にも
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