ハ敢《はか》なく情けないように思われて、手放すに忍びなかったのだ。
此忍びぬ心と、その忍びぬ心を破るに忍びぬ心と、二つの忍びぬ心が搦《から》み合った処に、ポチは旨《うま》く引掛《ひッかか》って、辛《から》くも棒|石塊《いしころ》の危ない浮世に彷徨《さまよ》う憂目を免《のが》れた。で、どうせ、それは、蜘蛛《くも》の巣だらけでは有ったろうけれど、兎も角も雨露《うろ》を凌《しの》ぐに足る椽の下の菰《こも》の上で、甘《うま》くはなくとも朝夕二度の汁掛け飯に事欠かず、まず無事に暢《のん》びりと育った。
育つに随《つ》れて、丸々と肥《ふと》って可愛らしかったのが、身長《せい》に幅を取られて、ヒョロ長くなり、面《かお》も甚《ひど》くトギスになって、一寸《ちょッと》狐のような犬になって了った。前足を突張って、尻をもったてて、弓のように反《そ》って伸《のび》をしながら、大きな口をアングリ開《あ》いて欠《あく》びをする所なぞは、誰《た》が眼にも余《あん》まり見《みっ》とも好くもなかったから、父は始終厭な犬だ厭な犬だと言って私を厭がらせたが、私はそんな犬振りで情《じょう》を二三にするような、そんな軽薄な
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