゙ような事を言いながら、それでも台所へ行って、欠茶碗《かけぢゃわん》に冷飯を盛って、何かの汁を掛けて来て呉れた。
早速|履脱《くつぬぎ》へ引入れて之を当がうと、小狗《こいぬ》は一寸《ちょっと》香《か》を嗅いで、直ぐ甘《うま》そうに先ずピチャピチャと舐出《なめだ》したが、汁が鼻孔《はな》へ入ると見えて、時々クシンクシンと小さな嚔《くしゃみ》をする。忽ち汁を舐尽《なめつく》して、今度は飯に掛った。他《ほか》に争う兄弟も無いのに、切《しきり》に小言を言いながら、ガツガツと喫《た》べ出したが、飯は未だ食慣《くいな》れぬかして、兎角上顎に引附《ひッつ》く。首を掉《ふ》って見るが、其様《そん》な事では中々取れない。果は前足で口の端《はた》を引掻《ひッか》くような真似をして、大藻掻《おおもが》きに藻掻《もが》く。
此隙《このひま》に私は母と談判を始めて、今晩一晩泊めて遣ってと、雪洞《ぼんぼり》を持った手に振垂《ぶらさが》る。母は一寸《ちょっと》渋ったが、もう斯うなっては仕方がない。阿爺《おとっ》さんに叱られるけれど、と言いながら、詰り桟俵法師《さんだらぼうし》を捜して来て、履脱《くつぬぎ》の隅に
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