ソら》を瞻上《みあ》げている。形体《なり》は私が寝ていて想像したよりも大きかったが、果して全身雨に濡れしょぼたれて、泥だらけになり、だらりと垂れた割合に大きい耳から雫《しずく》を滴《たら》し、ぽっちりと両つの眼を青貝のように列べて光らせている。
「おやおや、まあ、可愛らしい! ……」と、母も不覚《つい》言って了った。
況《いわん》や私は犬好だ。凝《じッ》として視ては居られない。母の袖の下から首を出して、チョッチョッと呼んで見た。
と、左程|畏《おそ》れた様子もなく、チョコチョコと側《そば》へ来て流石《さすが》に少し平べったくなりながら、頭を撫《な》でてやる私の手を、下からグイグイ推上《おしあ》げるようにして、ベロベロと舐廻《なめまわ》し、手を呉れる積《つもり》なのか、頻《しきり》に円い前足を挙げてバタバタやっていたが、果は和《やんわ》りと痛まぬ程に小指を咬む。
私は可愛《かわゆ》くて可愛くて堪《た》まらない。母の面《かお》を瞻上《みあ》げながら、少し鼻声を出し掛けて、
「阿母《おっか》さん、何か遣って。」
「遣るも好《い》いけど、居附いて了うと、仕方がないねえ。」
と、口では拒
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