ルってお寐《ね》と優しく言って、又|彼方《あちら》向いて了った。
 私も亦夜着を被《かぶ》った。狗《いぬ》は門前を去ったのか、啼声が稍《やや》遠くなるに随《つ》れて、父の鼾《いびき》が又|蒼蠅《うるさ》く耳に附く。寝られぬ儘に、私は夜着の中で今聴いた母の説明を反覆《くりかえ》し反覆し味《あじわ》って見た。まず何処かの飼犬が椽の下で児《こ》を生んだとする。小《ちッ》ぽけなむくむくしたのが重なり合って、首を擡《もちゃ》げて、ミイミイと乳房を探している所へ、親犬が余処《よそ》から帰って来て、其側《そのそば》へドサリと横になり、片端《かたはし》から抱え込んでベロベロ舐《なめ》ると、小さいから舌の先で他愛もなくコロコロと転がされる。転がされては大騒ぎして起返り、又ヨチヨチと這《は》い寄って、ポッチリと黒い鼻面でお腹《なか》を探り廻《まわ》り、漸く思う柔かな乳首《ちくび》を探り当て、狼狽《あわて》てチュウと吸付いて、小さな両手で揉《も》み立《た》て揉み立て吸出すと、甘い温《あった》かな乳汁《ちち》が滾々《どくどく》と出て来て、咽喉《のど》へ流れ込み、胸を下《さが》って、何とも言えずお甘《い》しい。
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