》で展墓《てんぼ》の為帰省した。寺の在る処は旧《もと》は淋しい町端《まちはず》れで、門前の芋畠を吹く風も悲しい程だったが、今は可なりの町並になって居て、昔|能《よ》く憩《やす》んだ事のある門脇《もんわき》の掛茶屋は影も形も無くなり、其跡が Barber's《バーバース》 Shop《ショップ》 と白ペンキの奇抜な看板を揚げた理髪店になっている。
が、寺は其反対に荒れ果てて、門は左程《さほど》でもなかったが、突当りの本堂も、其側《そのそば》の庫裏《くり》も、多年の風雨《ふうう》に曝《さらさ》れて、処々壁が落ち、下地《したじ》の骨が露《あら》われ、屋根には名も知れぬ草が生えて、甚《ひど》く淋《さび》れていた。私は台所口で寺男が内職に売っている樒《しきみ》を四五本買って、井戸へ掛って、釣瓶縄《つるべなわ》が腐って切れそうになっているのを心配しながら、漸く水を汲上げた。手桶片手に、樒《しきみ》を提《さ》げて、本堂をグルリと廻《まわ》って、後《うしろ》の墓地へ来て見ると、新仏《しんぼとけ》が有ったと見えて、地尻《じしり》に高い杉の木の下《した》に、白張《しらはり》の提灯が二張《ふたはり》ハタハタ
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