夜《つや》で、翌日は葬式と、何だか家内《かない》が混雑《ごたごた》するのに、覩《み》る物聞く事皆珍らしいので、私は其に紛れて何とも思わなかったが、軈《やが》て葬式が済んで寺から帰って来ると、手伝の人も一人帰り二人帰りして、跡は又|家《うち》の者ばかりになる。薄暗いランプの蔭でト面《かお》を合せて見ると、お祖母《ばあ》さんが一人足りない。ああ、お祖母《ばあ》さんは先刻《さっき》穴へ入って了ったが、もう何時迄《いつまで》待ても帰って来ぬのだと思うと、急に私は悲しくなってシクシク泣出した。
私の泣くのを見て母も泣いた。父も到頭泣いた。親子三人|向合《むかいあ》って、黙って暫く泣いていた。
八
祖母に死別れて悲しかったが、其頃はまだ子供だったから、十分に人間死別の悲しみを汲分け得なかった。その悲しみの底を割ったと思われるのは、其後《そののち》両親《りょうしん》に死なれた時である。
去る者日々に疎《うと》しとは一わたりの道理で、私のような浮世の落伍者は反《かえっ》て年と共に死んだ親を慕う心が深く、厚く、濃《こまや》かになるようだ。
去年の事だ。私は久振《ひさしぶり
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