》になく小声で、お前は、まあ、何処へ行ッていたい? お祖母《ばあ》さんがお亡《なく》なンなすッたよ、という。お亡《なく》なンなすッたよが一寸《ちょっと》分らなかったが、死んだのだと聞くと、吃驚《びっくり》すると同時に、急に何だか可怕《おっかなく》なって来た。無論まだ死ぬという事が如何《どん》な事だか能《よ》くは分らなかったが、唯何となく斯う奥の知れぬ真暗な穴のような処へ入る事のように思われて、日頃から可怕《おっかな》がっていたのだが、子供も人間だから矛盾を免れない。お祖母《ばあ》さんが死んだのは可怕《おっかな》いが、その可怕《おっかな》い処を見たいような気もする。
 で、母が来いと云うから、跟《あと》に随《つ》いて怕々《こわごわ》奥へ行って見ると、父は未だ居る医者と何か話をしていたが、私の面《かお》を見るより、何処へ行って居た。もう一足早かったらなあ……と、何だか甚《ひど》く残念がって、此処へ来てお祖母《ばあ》さんにお辞儀しろという。
 改まってお祖母《ばあ》さんにお辞儀しろと言われた事は滅多に無いので、死ぬと変な事をするものだ、と思って、おッかな恟《びっく》り側《そば》へ行くと、小屏
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