セ――作さんが着いた、作さんが、と喚《わめ》く。何処からか母が駈出して来たから、私が卒然《いきなり》、「阿父《おとっ》さんは? ……」と如何《どう》やら人の声のような皺嗄声《しゃがれごえ》で聞くと、母は妙な面《かお》をしたが、「到頭|不好《いけなか》ったよ……」というより早く泣き出した。私はハッと思うと、気が遠くなって、茫然として母が袖を顔に当《あて》て泣くのを視ていたが、ふと何だか胸が一杯になって泣こうとしたら、「まあ、彼方《あッち》へお出でなさい」、と誰だか袖を引張るから、見ると従弟《いとこ》だ。何処へ何しに行《い》くのだか、分っているような、分っていないような、変な塩梅《あんばい》だったが、私は何だか分ってる積《つもり》で、従弟《いとこ》の跟《あと》に従《つ》いて行くと、人が大勢車座になっている明かるい座敷へ来た。と、急に私は何か母に聞きたい事が有るのを忘れていたような気持がして、母は如何《どう》したろうと後《うしろ》を振向く途端に、「おお作か」、という声が俄《にわか》に寂然《しん》となった座敷の中《うち》に聞えたから、又|此方《こッち》を振向くと、其処に伯父が居るようだ。夫から
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