рヘ其処へ坐って、何でも漫《やたら》に其処に居る人達に辞儀をしたようだったが、其中《そのうち》に如何《どう》いう訳だったか、伯父の側《そば》へ行く事になって、側《そば》へ行くと、伯父が「阿父《おとっ》さんも到頭|此様《こんな》になられた」、といいながら、側《そば》に臥《ね》ている人の面《かお》に掛けた白い物を取除《とりの》けたから、見ると、臥《ね》て居る人は父で、何だか目を瞑《ねむ》っている。私は其面《そのかお》を凝《じっ》と視ていた。すると、何時《いつ》の間にか母が側《そば》へ来ていて、泣声で、「息を引取る迄ね、お前に逢いたがりなすってね……」というのが聞えた。私はふッと目が覚めた、目が覚めたような心持がした。ああ、父は死んでいる……つい其処に死んでいる……骨と皮ばかりの痩果てた其死顔がつい目の前に見える。之を見ると、私は卒然として、「ああ済《すま》なかった……」と思った。此刹那に理窟はない、非凡も、平凡も、何もない。文士という肩書の無い白地《しろじ》の尋常《ただ》の人間に戻り、ああ、済《すま》なかった、という一念になり、我を忘れ、世間を忘れて、私は……私は遂に泣いた……

    
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