蝠aで死にかかって居たのに……

          六十

 翌朝《あくるあさ》は夙《はや》く発《た》つ積《つもり》だったが、発《た》てなくなった。尾籠《びろう》な事には自《おのずか》ら尾籠《びろう》な法則が有るから、既に一種の関係が成立った以上は、女に多少の手当をして行《い》かなきゃならん――と、さ、私は思わざるを得なかった。見栄坊《みえぼう》だから、金が無くても金の有る風をして、紙入を叩いて遣《や》って了うと、もう汽車賃も残らない。なに、父はまだ危篤というのじゃなし、一時間や二時間|発《た》つのが後れたって仔細は無かろうと、自分で勝手な理窟を附けて、女には内々で朝から金策に歩いたが、出来なかった。昼前に一寸《ちょっと》下宿へ帰ると、留守に国から電報が着いていた。胸を轟かして、狼狽《あわ》てて封を切って見ると、「父危篤|直《すぐ》戻れ」だ。之を読むと私はわなわなと震え出した。卒然《いきなり》下宿を飛出して、血眼《ちまなこ》になって奔走して、辛《かろ》うじて聊《いささ》かの金を手に入れたから、下宿へも帰らず、其足で直ぐ東京を発《た》って、汽車の幾時間を藻掻《もが》き通して、国へ着いた
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