ス。時々ふと気が変って、此様《こん》な女に関係しては結果が面白くあるまいと危ぶむ。其側《そのそば》から直ぐ又今夜こそは是が非でもという気になる。で、今我部屋へ来て床の敷《と》ってあるのを見ると、もう気も坐《そぞ》ろになって、余《よ》の事なぞは考えられん。今にも屹度《きっと》来るに違いない、来たら……と其事ばかりを考えながら、急いで寝衣《ねまき》に着易《きか》えて床へ入ろうとして、ふと机の上を見ると、手紙が載せてある。手に取って見ると、国からの手紙だ。心は狂っていても、流石《さすが》に父の事は気になるから、手早く封を切って読むと、まず驚いた。

          五十九

 此手紙で見ると、大した事ではないと思っていた父の病気は其後《そのご》甚だ宜しくない。まだ医者が見放したのでは無いけれど、自分は最う到底《とて》も直らぬと覚悟して、切《しき》りに私に会いたがっているそうだ。此手紙御覧次第|直様《すぐさま》御帰国|待入《まちいり》申候《もうしそろ》と母の手で狼狽《うろた》えた文体《ぶんてい》だ。
 私は孝行だの何だのという事を、道学先生の世迷言《よまいごと》のように思って、鼻で遇《あし
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