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一|度《ど》酷《ひど》い目に遭ってから、私は勘ちゃんが可怕《こわ》くて可怕くてならなくなった。勘ちゃんが側《そば》へ来ると、最う私は恟々《おどおど》して、呉れと言わない中《うち》から持ってる物を遣り、勘ちゃん、あの、賢ちゃんがね、お前の事を泥棒だッて言ってたよと、余計な事迄|告口《つげぐち》して、勉めて御機嫌を取っていた。斯うしていれば大抵は無難だが、それでも時々何の理由もなく、通りすがりに大切の頭をコツリと打《や》って行くこともある。
外《そと》は面白いが、勘ちゃんが厭だ。と云って、内でお祖母《ばあ》さんと睨《にら》めッこも詰らない。そこで、お隣のお光《みっ》ちゃんにお向うのお芳《よっ》ちゃんを呼んで来る。お光《みっ》ちゃんは外歯《そっぱ》のお出額《でこ》で河童のような児《こ》だったけれど、お芳《よっ》ちゃんは色白の鈴を張ったような眼で、好児《いいこ》だった。私は飯事《ままごと》でお芳《よっ》ちゃんの旦那様になるのが大好だった。お烟草盆《たばこぼん》のお芳《よっ》ちゃんが真面目腐って、貴方《あなた》、御飯をお上ンなさいなと云う。アイと私が返事をする。アイじゃ可笑《おかし》いわ
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