きっと》欲しがって、卒直にお呉ンなと云う。機嫌好く遣れば好し、厭だと頭振《かぶり》を振ると、顋《あご》を突出して、好《い》いよ好いよと云う。薄気味《うすきび》悪くなって遣ろうとするが、最う受取らない。好《い》いよ、呉れないと云ったね、好《い》いよと、其許《そればか》りを反覆《くりかえ》して行って了う。何となく気になるが、子供の事だ、遊びに耋《ほう》けて忘れていると、何時《いつ》の間にか勘ちゃんが、使の帰りに何処かで蛇の死んだのを拾って来て、窃《そっ》と背後《うしろ》から忍び寄て、卒然《いきなり》ピシャリと叩き付ける。ワッと泣き声揚げて此方《こちら》は逃出す、其後姿を勘ちゃんは白眼《しろめ》で見送って、「様《ざま》ア見やがれ!」
私は散々此勘ちゃんに苛《いじ》められた。初こそ悔しがって武者振り付いても見たが、勘ちゃんは喧嘩の名人だ。直《すぐ》と足搦《あしがら》掛けて推倒《おしたお》して置いて、馬乗りに乗ってピシャピシャ打《ぶ》つ。私にはお祖母《ばあ》さんが附いてるから、内では親にさえ滅多に打《ぶ》たれた事のない頭だ。その大切にせられている頭を、勘ちゃんは遠慮せずにピシャピシャ打《ぶ》つ
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