でお祖母《ばあ》さんが舐《なめ》るようにして可愛がって呉れるが、一向嬉しくない。反《かえっ》て蒼蠅《うるさ》くなって、出るなと制《と》める袖の下を潜って外へ駈出す。
 しかし一歩|門外《もんそと》へ出れば、最う浮世の荒い風が吹く。子供の時分の其は、何処にも有る苛《いじ》めッ児《こ》という奴だ。私の近処にも其が居た。
 勘《かん》ちゃんと云って、私より二ツ三ツ年上で、獅子ッ鼻の、色の真黒けな児《こ》だったが、斯ういうのに限って乱暴だ。親仁《おやじ》は郵便局の配達か何かで、大酒呑で、阿母《おふくろ》はお引摺《ひきずり》と来ているから、常《いつ》も鍵裂《かぎざき》だらけの着物を着て、踵《かかと》の切れた冷飯草履《ひやめしぞうり》を突掛け、片手に貧乏徳利を提げ、子供の癖に尾籠《びろう》な流行歌《はやりうた》を大声に唱《うた》いながら、飛んだり、跳ねたり、曲駈《きょくがけ》というのを遣り遣り使に行く。始終使にばかり行っても居なかったろうが、私は勘ちゃんの事を憶出すと、何故だか常《いつ》も其使に行く姿を想出《おもいだ》す。
 勘ちゃんは家《うち》では何も貰えぬから、人が何か持ってさえいれば、屹度《
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