くまで》不承知で、先生を差措《さしお》いて、御自分の口から断然《きっぱり》断られた。私は案外だった。頼めば二つ返事で引受けて呉れるとばかり思っていたから、親戚の者が連れて行こうとした時にも、言わでもの広言迄吐いて拒んだのだが、こう断られて見ると、何だか先生夫婦に欺《あざむ》かれたような気がして、腹が立って耐《な》らなかった。世間の人は皆私の為に生きているような気でいたからだ。
 もう斯うなっては、仕方がない、書けても書けんでも、筆で命を繋《つな》ぐより外《ほか》仕方がない。食うと食わぬの境になると、私でも必死になる。必死になって書いて書いて書捲《かきまく》って、その度に、悪感情は抱《いだ》いていたけれど、仕方がないから、某大家の所へ持って行って、筆を加えて貰った上に、売って迄貰っていた。其が為には都合上門人とも称していた。然うして一二年苦しんでいる中《うち》に、どうやら曲りなりにも一本立が出来るようになると、急に此前奥さんに断られた時の無念を想出《おもいだ》して、夫からは根岸のお宅へも無沙汰《ぶさた》になった。もう先生に余り用はない。先生は或は感情を害したかも知れないが、先生が感情を
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