tが満《くち》くて食べられない。「私《あたし》廃《よ》してよ」、という。
部屋で机の前で今日の新聞を一寸《ちょっと》読む。大抵続物だけだ。それから編棒と毛糸の球を持出して、暫くは黙って切々《せッせッ》と編物をしている。私が用が有って部屋の前でも通ると、「古屋さん、これ何になると思って?」と編掛けを翳《かざ》して見せる。私が見たんじゃ、何だか円い変なお猪口《ちょく》のような物で、何になるのだか見当が附かないから、分らないというと、でも、まあ、当てて見ろという。熟考の上、「巾着でしょう?」というと、「いいえ」、と頭振《かぶり》を振る。巾着でないとすると、手袋には小さし、靴下でもなさそうだし、「ああ、分った! 匂袋《においぶくろ》だ」、と図星を言った積《つもり》でいうと、雪江さんは吃驚《びっくり》して、「まあ、可厭《いや》だ! 匂袋《においぶくろ》だなんぞッて……其様《そん》な物は編物にゃなくッてよ。」匂袋《においぶくろ》でもないとすると、もう私には分らない。降参して了うと、雪江さんは莞爾《にっこり》ともしないで、「これ、人形の手袋。」
雪江さんは一つ事を何時迄《いつまで》もしているのは
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