ヲえ」、と私は何だか極《きま》りが悪くなって俯向《うつむ》いて了う。
 此話が発展したら、如何《どん》な面白い話になるのだか分らんのだけれど、其様《そん》な時に限って生憎《あいにく》と、茶の間|辺《あたり》で伯母さんの奥さんの意地悪が私を呼ぶ、
「古屋さん! 早くランプを……何を愚図々々してるンだろうねえ。」
 残惜しいけれど、仕方がない。其切りで私は雪江さんの部屋を出て了う。

          三十四

 一番楽しみなのは日曜だ。それも天気だと、朝から客が立込んで私は目が眩《まわ》る程忙しいし、雪江さんもお友達が遊びに来たり、お友達の処へ遊びに行ったりして、私の事なんぞ忘れているから、天気は糞だ。雨降りに限る。就中《なかんずく》伯父さんの先生は何か余儀ない用事があって朝から留守、雪江さんは一日|家《うち》、という雨降の日が一番|好《い》い。
 其様《そん》な日には雪江さんは屹度《きっと》思切て朝寝坊をして、私なんぞは徐々《そろそろ》昼飯が恋しくなる時分に、漸う起きて来る。顔を洗って、御飯を喰べて、其から長いこと掛って髪を結う。結い了う頃は最う午砲《ドン》だけれど、お昼はお腹《なか
前へ 次へ
全207ページ中110ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング