B何かに紛れてランプ配りが晩《おそ》くなった時などは、もう夕闇が隅々へ行渡って薄暗くなった此の部屋の中に、机に茫然《ぼんやり》頬杖を杖《つ》いてる雪江さんの眼鼻の定かならぬ顔が、唯|円々《まるまる》と微白《ほのじろ》く見える。何となく詩的だ。
「晩《おそ》くなりました。」
とぶっきらぼうの私も雪江さんだけには言いつけぬお世辞も不覚《つい》出て、机の上の毛糸のランプ敷《じき》へ窃《そっ》とランプを載せると
「いいえ、まだ要らないわ。」
雪江さんは屹度《きっと》斯ういう。これが伯父さんの先生でも有ろうものなら、口を尖《とん》がらかして、「もッと手廻《てまわし》して早うせにゃ不好《いかん》!」と来る所だ。大した相違だ。だから、家《うち》で人間らしいのは雪江さんばかりだと言うのだ。
其儘出て来るのが、何だか飽気《あっけ》なくて、
「今日|貴嬢《あなた》の琴のお師匠さんの前を通りました。一寸《ちょっと》好《い》い家《うち》ですね。」
「あら、そう」、と雪江さんがいう。心持首を傾《かし》げて、「何時頃?」
「そうさなあ……四時ごろでしたか。」
「じゃ、私《あたし》の行ってた時だわねえ。」
「
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