]さんではないようだ。大方まだ済ないンだろう、なぞと思いながら、うッかり覗いていたが、ふッと気が附くと、先刻《さっき》から側《そば》で何処かの八ツばかりの男の児が、青洟《あおばな》を啜《すす》り啜り、不思議そうに私の面《かお》を瞻上《みあ》げている。子供でも極《きま》りが悪くなって、※[#「勹/夕」、第3水準1−14−76]々《そこそこ》に其処の門口を離れて帰って来た事も有ったっけが……
 夕方は何だか混雑《ごたごた》して落着かぬ中《うち》にも、一寸《ちょっと》好《い》い事が一つある。ランプ掃除は下女の役だが、夕方之に火を点《つ》けて座敷々々へ配るのは私の役だ。其時だけは私は公然雪江さんの部屋へ入る権利がある。雪江さんの部屋は奥の四畳半で、便所の側《そば》だけれど、一寸《ちょっと》小奇麗な好《い》い部屋だ。本箱だの、机だの、ガラス戸の箱へ入《いれ》た大きな人形だの、袋入りの琴だの、写真挟みだの、何だの角《か》だの体裁よく列《なら》べてあって、留守の中《うち》は整然《きちん》と片附いているけれど、帰って来ると、書物を出放《だしばな》しにしたり、毛糸の球を転がしたりして引散《ひっちら》かす
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