蛹凾「だから、私がまだ自分の部屋の長四畳へ帰るか帰らぬ中《うち》に、もう編物を止めて琴を浚《さら》っている。近頃では最うポコンのベコンでも無くなった。斯うして聴いていると、如何《どう》しても琴に違いないと、感心して聴惚《ききほ》れていると、十分と経《た》たぬ中《うち》に、ジャカジャカジャンと引掻廻《ひっかきまわ》すような音がして、其切《それぎり》パタリと、琴の音《ね》は止む……ともう茶の間で若い賑《にぎや》かな雪江さんの声が聞える。
忽ちドタドタドタと椽側を駈けて来る音がする。下女の松に違いない。後《あと》からパタパタと追蒐《おっか》けて来るのは、雪江さんに極《きま》ってる。玄関で追付《おっつ》いて、何を如何《どう》するのだか、キャッキャッと騒ぐ。松が敵《かな》わなくなって、私の部屋の前を駈脱《かけぬ》けて台所へ逃込む。雪江さんが後《あと》から追蒐《おっか》けて行って、また台所で一騒動やる中《うち》に、ガラガラガチャンと何かが壊《こわ》れる。阿母《かあ》さんが茶の間から大きな声で叱ると、台所は急に火の消えたように闃寂《ひっそり》となる。
私は、国に居る時分は、お向うのお芳《よっ》ち
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