bて、高い木履《ぽっくり》を好いて穿《は》いていた。紫の包を抱えて、長い柄の蝙蝠傘《こうもりがさ》を持って出て行く後姿が私は好くって堪《な》らなかったから、いつも其時刻には何喰わぬ顔をして部屋の窓から外を見ていると、雪江さんは大抵は見られているとは気が附かずに、一寸《ちょっと》お尻を撫《な》でてから、髪を壊《こわ》すまいと、低く屈《こご》んで徐《そっ》と門を潜《くぐ》って出て行くが、時とすると潜る前にヒョイと後《うしろ》を振向いて私と顔を看合せる事がある。そうすると、雪江さんは奇麗な歯並をチラリと見せて、何の意味もなく莞爾《にっこり》する。私は疾《とう》から出そうな莞爾《にっこり》を顔の何処へか押込めて、強いて真面目を作っているのだから、雪江さんの笑顔に誘われると、耐《こら》え切れなくなって不覚《つい》矢張《やっぱり》莞爾《にっこり》する。こうして莞爾《にっこり》に対するに莞爾《にっこり》を以てするのを一日の楽みにして、其をせぬ日は何となく物足りなく思っていた。いや、罪の無い話さ。
三十三
午後はいつも私が学校へ行った留守に、雪江さんが帰って来るので、掛違って
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