ナの取扱いが変ったのではない。相変らず書生扱にされて、小《こ》ッ甚《ぴど》くコキ使われ、果は下女の担任であった靴磨きをも私の役に振替えられて了った。無論其時は私は憤激した。余程《よッぽど》下宿しようかと思った、が、思ったばかりで、下宿もせんで、為《さ》せられる儘に靴磨きもして、而《そう》して国元へは其を隠して居た。少し妙なようだが、なに、妙でも何でもない。私は実は雪江さんに惚れていたので。
惚れては居たが、夫だから雪江さんを如何《どう》しようという気はなかった。其時分は私もまだ初心《うぶ》だったから、正直に女に惚れるのは男児の恥辱と心得ていた。女を弄《もてあそ》ぶのは何故だか左程の罪悪とも思って居なかったが、苟《いやしく》も男児たる者が女なんぞに惚れて性根《しょうね》を失うなどと、そんな腐った、そんなやくざな根性で何が出来ると息巻いていた。が、口で息巻く程には心で思っていなかったから、自分もいつか其程に擯斥《ひんせき》する恋に囚《とら》われて了ったのだが、流石《さすが》に囚《とら》われたのを恥て、明かに然うと自認し得なかった気味がある。から、若《もし》其頃誰かが面と向って私に然うと注
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