ある。また小奇用《こぎよう》で、何一ツ知らぬという事の無い代り、これ一ツ卓絶《すぐれ》て出来るという芸もない、怠《ずるけ》るが性分で倦《あき》るが病だといえばそれもその筈《はず》か。
昇はまた頗る愛嬌《あいきょう》に富でいて、極《きわめ》て世辞がよい。殊《こと》に初対面の人にはチヤホヤもまた一段で、婦人にもあれ老人にもあれ、それ相応に調子を合せて曾てそらすという事なし。唯《ただ》不思議な事には、親しくなるに随《したが》い次第に愛想《あいそ》が無くなり、鼻の頭《さき》で待遇《あしらっ》て折に触れては気に障る事を言うか、さなくば厭《いや》におひゃらかす。それを憤《いか》りて喰《くっ》て懸れば、手に合う者はその場で捻返《ねじかえ》し、手に合わぬ者は一|時《じ》笑ッて済まして後《のち》、必ず讐《あだ》を酬《むく》ゆる……尾籠《びろう》ながら、犬の糞《くそ》で横面《そっぽう》を打曲《はりま》げる。
とはいうものの昇は才子で、能く課長殿に事《つか》える。この課長殿というお方は、曾て西欧の水を飲まれた事のあるだけに「殿様風」という事がキツイお嫌《きら》いと見えて、常に口を極めて御同僚方の尊大の風
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