を御|誹謗《ひぼう》遊ばすが、御自分は評判の気むずかし屋で、御意《ぎょい》に叶《かな》わぬとなると瑣細《ささい》の事にまで眼を剥出《むきだ》して御立腹遊ばす、言わば自由主義の圧制家という御方だから、哀れや属官の人々は御機嫌《ごきげん》の取様に迷《まごつ》いてウロウロする中に、独り昇は迷《まごつ》かぬ。まず課長殿の身態《みぶり》声音《こわいろ》はおろか、咳払《せきばら》いの様子から嚔《くさめ》の仕方まで真似《まね》たものだ。ヤそのまた真似の巧《たくみ》な事というものは、あたかもその人が其処《そこ》に居て云為《うんい》するが如くでそっくりそのまま、唯相違と言ッては、課長殿は誰の前でもアハハハとお笑い遊ばすが、昇は人に依ッてエヘヘ笑いをする而已《のみ》。また課長殿に物など言懸けられた時は、まず忙わしく席を離れ、仔細《しさい》らしく小首を傾けて謹《つつしん》で承り、承り終ッてさて莞爾《にっこり》微笑して恭《うやうや》しく御返答申上る。要するに昇は長官を敬すると言ッても遠ざけるには至らず、狎《な》れるといっても涜《けが》すには至らず、諸事万事御意の随意々々《まにまに》曾て抵抗した事なく、しかのみ
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