無く宿無小僧となり、彼処《あすこ》の親戚《しんせき》此処《ここ》の知己《しるべ》と流れ渡ッている内、曾《かつ》て侍奉公までした事が有るといいイヤ無いという、紛々たる人の噂《うわさ》は滅多に宛《あて》になら坂《ざか》や児手柏《このでがしわ》の上露《うわつゆ》よりももろいものと旁付《かたづけ》て置いて、さて正味の確実《たしか》なところを掻摘《かいつま》んで誌《しる》せば、産《うまれ》は東京《とうけい》で、水道の水臭い士族の一人《かたわれ》だと履歴書を見た者の噺《はな》し、こればかりは偽《うそ》でない。本田|昇《のぼる》と言ッて、文三より二年|前《ぜん》に某省の等外を拝命した以来《このかた》、吹小歇《ふきおやみ》のない仕合《しあわせ》の風にグットのした出来星《できぼし》判任、当時は六等属の独身《ひとりみ》ではまず楽な身の上。
昇は所謂《いわゆる》才子で、頗《すこぶ》る智慧《ちま》才覚が有ッてまた能《よ》く智慧才覚を鼻に懸ける。弁舌は縦横無尽、大道に出る豆蔵《まめぞう》の塁を摩して雄を争うも可なりという程では有るが、竪板《たていた》の水の流を堰《せき》かねて折節は覚えず法螺《ほら》を吹く事も
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