《みんな》母親さんにはコレですよ」
 ト文三が手頭《てくび》を振ッて見せる。お勢は唯|点頭《うなずい》た而已《のみ》で言葉はなく、二階を降りて奥坐舗へ参ッた。
 先程より疳癪《かんしゃく》の眥《まなじり》を釣《つ》り上げて手ぐすね引て待ッていた母親のお政は、お勢の顔を見るより早く、込み上げて来る小言を一時にさらけ出しての大怒鳴《おおがなり》。
「お……お……お勢、あれ程呼ぶのがお前には聞えなかッたかエ、聾者《つんぼ》じゃアあるまいし、人《しと》が呼んだら好加減に返事をするがいい……全躰マア何の用が有ッて二階へお出でだ、エ、何の用が有ッてだエ」
 ト逆上《のぼせ》あがッて極《き》め付けても、此方《こなた》は一向平気なもので、
「何《な》にも用は有りゃアしないけれども……」
「用がないのに何故お出でだ。先刻《さっき》あれほど、もうこれからは今までのようにヘタクタ二階へ往ッてはならないと言ッたのがお前にはまだ解らないかエ。さかりの附た犬じゃアあるまいし、間《ま》がな透《すき》がな文三の傍《そば》へばッかし往きたがるよ」
「今までは二階へ往ッても善くッてこれからは悪いなんぞッて、そんな不条理な
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