て見たがどうも気が引立《ひった》たぬ。依《よっ》て更に出直して「大丈夫」ト熱気《やっき》とした風《ふり》をして見て、歯を喰切《くいしば》ッて見て、「一旦思い定めた事を変《へん》がえるという事が有るものか……しらん、止めても止まらんぞ」
と言ッて出て往《ゆ》けば、彼娘《あれ》を捨てなければならぬかと落胆したおもむき。今更未練が出てお勢を捨るなどという事は勿躰《もったい》なくて出来ず、と言ッて叔母に詫言《わびごと》を言うも無念、あれも厭《いや》なりこれも厭なりで思案の糸筋が乱《もつ》れ出し、肚の裏《うち》では上を下へとゴッタ返えすが、この時より既にどうやら人が止めずとも遂《つい》には我から止まりそうな心地がせられた。「マアともかくも」ト取旁付に懸りは懸ッたが、考えながらするので思の外暇取り、二時頃までかかって漸《ようや》く旁付終りホッと一息吐いていると、ミシリミシリと梯子段《はしごだん》を登る人の跫音《あしおと》がする。跫音を聞たばかりで姿を見ずとも文三にはそれと解ッた者か、先刻飲込んだニッコリを改めて顔へ現わして其方《そなた》を振向く。上ッて来た者はお勢で、文三の顔を見てこれもまたニッ
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