「フム乙《おつ》う山口を弁護するネ、やっぱり同病|相憐《あいあわ》れむのか、アハアハアハ」
高い男は中背の男の顔を尻眼《しりめ》にかけて口を鉗《つぐ》んでしまッたので談話《はなし》がすこし中絶《とぎ》れる。錦町《にしきちょう》へ曲り込んで二ツ目の横町の角まで参った時、中背の男は不図《ふと》立止って、
「ダガ君の免を喰《くっ》たのは、弔すべくまた賀すべしだぜ」
「何故」
「何故と言って、君、これからは朝から晩まで情婦《いろ》の側《そば》にへばり付いている事が出来らアネ。アハアハアハ」
「フフフン、馬鹿を言給うな」
ト高い男は顔に似気《にげ》なく微笑を含み、さて失敬の挨拶《あいさつ》も手軽るく、別れて独り小川町《おがわまち》の方へ参る。顔の微笑が一かわ一かわ消え往くにつれ、足取も次第々々に緩《ゆるや》かになって、終《つい》には虫の這《は》う様になり、悄然《しょんぼり》と頭《こうべ》をうな垂れて二三町程も参ッた頃、不図《ふと》立止りて四辺《あたり》を回顧《みまわ》し、駭然《がいぜん》として二足三足立戻ッて、トある横町へ曲り込んで、角から三軒目の格子戸《こうしど》作りの二階家へ這入《はい
前へ
次へ
全294ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング