っ》たア噛《かじ》っていてサ、そうして事務を取らせて捗《はか》の往《い》く者と言ったら、マア我輩二三人だ。だから若し果して信用しているのなら、已《やむ》を得ないのサ」
「けれども山口を見給え、事務を取らせたらあの男程捗の往く者はあるまいけれども、やっぱり免を喰《く》ったじゃアないか」
「彼奴《あいつ》はいかん、彼奴は馬鹿だからいかん」
「何故」
「何故と言って、彼奴は馬鹿だ、課長に向って此間《こないだ》のような事を言う所を見りゃア、弥《いよいよ》馬鹿だ」
「あれは全体課長が悪いサ、自分が不条理な事を言付けながら、何にもあんなに頭ごなしにいうこともない」
「それは課長の方が或は不条理かも知れぬが、しかし苟《いやしく》も長官たる者に向って抵抗を試みるなぞというなア、馬鹿の骨頂だ。まず考えて見給え、山口は何んだ、属吏じゃアないか。属吏ならば、仮令《たと》い課長の言付を条理と思ったにしろ思わぬにしろ、ハイハイ言ってその通り処弁《しょべん》して往きゃア、職分は尽きてるじゃアないか。然《しか》るに彼奴のように、苟も課長たる者に向ってあんな差図がましい事を……」
「イヤあれは指図じゃアない、注意サ」
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