霜降《しもふり》「スコッチ」の服を身に纏《まと》ッて、組紐《くみひも》を盤帯《はちまき》にした帽檐広《つばびろ》な黒|羅紗《ラシャ》の帽子を戴《いただ》いてい、今一人は、前の男より二ツ三ツ兄らしく、中肉中背で色白の丸顔、口元の尋常な所から眼付のパッチリとした所は仲々の好男子ながら、顔立がひねてこせこせしているので、何となく品格のない男。黒羅紗の半「フロックコート」に同じ色の「チョッキ」、洋袴は何か乙な縞《しま》羅紗で、リュウとした衣裳附《いしょうづけ》、縁《ふち》の巻上ッた釜底形《かまぞこがた》の黒の帽子を眉深《まぶか》に冠《かぶ》り、左の手を隠袋《かくし》へ差入れ、右の手で細々とした杖《つえ》を玩物《おもちゃ》にしながら、高い男に向い、
「しかしネー、若《も》し果して課長が我輩を信用しているなら、蓋《けだ》し已《や》むを得ざるに出《い》でたんだ。何故《なぜ》と言ッて見給え、局員四十有余名と言やア大層のようだけれども、皆《みんな》腰の曲ッた老爺《じいさん》に非《あら》ざれば気の利《き》かない奴《やつ》ばかりだろう。その内で、こう言やア可笑《おか》しい様だけれども、若手でサ、原書も些《ち
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