》る。一所《いっしょ》に這入ッて見よう。
高い男は玄関を通り抜けて縁側へ立出《たちいで》ると、傍《かたわら》の坐舗《ざしき》の障子がスラリ開《あ》いて、年頃十八九の婦人の首、チョンボリとした摘《つまみ》ッ鼻《ぱな》と、日の丸の紋を染抜いたムックリとした頬とで、その持主の身分が知れるという奴が、ヌット出る。
「お帰《かいん》なさいまし」
トいって、何故か口舐《くちなめ》ずりをする。
「叔母さんは」
「先程《さっき》お嬢さまと何処《どち》らへか」
「そう」
ト言捨てて高い男は縁側を伝《つたわ》って参り、突当りの段梯子《だんばしご》を登ッて二階へ上る。ここは六畳の小坐舗《こざしき》、一間の床《とこ》に三尺の押入れ付、三方は壁で唯南ばかりが障子になッている。床に掛けた軸は隅々《すみずみ》も既に虫喰《むしば》んで、床花瓶《とこばないけ》に投入れた二本三本《ふたもとみもと》の蝦夷菊《えぞぎく》は、うら枯れて枯葉がち。坐舗の一隅《いちぐう》を顧みると古びた机が一脚|据《す》え付けてあッて、筆、ペン、楊枝《ようじ》などを掴挿《つかみざ》しにした筆立一個に、歯磨《はみがき》の函《はこ》と肩を比《な
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