を見送ッて文三は吻《ほっ》と溜息《ためいき》を吐《つ》いて、
「ますます言難《いいにく》い」
 一時間程を経て文三は漸《ようや》く寐支度をして褥《とこ》へは這入《はい》ッたが、さて眠られぬ。眠られぬままに過去《こしかた》将来《ゆくすえ》を思い回《めぐ》らせば回らすほど、尚お気が冴《さえ》て眼も合わず、これではならぬと気を取直し緊《きび》しく両眼を閉じて眠入《ねい》ッた風《ふり》をして見ても自ら欺《あざむ》くことも出来ず、余儀なく寐返りを打ち溜息を吻《つ》きながら眠らずして夢を見ている内に、一番|鶏《どり》が唱《うた》い二番鶏が唱い、漸く暁《あけがた》近くなる。
「寧《いっ》そ今夜《こよい》はこのままで」トおもう頃に漸く眼がしょぼついて来て額《あたま》が乱れだして、今まで眼前に隠見《ちらつい》ていた母親の白髪首《しらがくび》に斑《まばら》な黒髯《くろひげ》が生えて……課長の首になる、そのまた恐《こわ》らしい髯首が暫《しば》らくの間眼まぐろしく水車《みずぐるま》の如くに廻転《まわっ》ている内に次第々々に小いさく成ッて……やがて相恰《そうごう》が変ッて……何時の間にか薔薇《ばら》の花掻頭《は
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