て出て来た者を見れば例の日の丸の紋を染抜いた首の持主で、空嘯《そらうそぶ》いた鼻の端《さき》へ突出された汚穢物《よごれもの》を受取り、振栄《ふりばえ》のあるお尻《いど》を振立てて却退《ひきさが》る。やがて洗ッて持ッて来る、茶を入れる、サアそれからが今日聞いて来た歌曲の噂《うわさ》で、母子《おやこ》二《ふたつ》の口が結ばる暇なし。免職の事を吹聴《ふいちょう》したくも言出す潮《しお》がないので、文三は余儀なく聴きたくもない咄《はなし》を聞て空《むな》しく時刻を移す内、説話《はなし》は漸くに清元《きよもと》長唄《ながうた》の優劣論に移る。
「母親さんは自分が清元が出来るもんだからそんな事をお言いだけれども、長唄の方が好《いい》サ」
「長唄も岡安《おかやす》ならまんざらでもないけれども、松永は唯つッこむばかりで面白くもなんとも有りゃアしない。それよりか清元の事サ、どうも意気でいいワ。『四谷《よつや》で始めて逢《お》うた時、すいたらしいと思うたが、因果な縁の糸車』」
ト中音で口癖の清元を唄《うた》ッてケロリとして
「いいワ」
「その通り品格がないから嫌《きら》い」
「また始まッた、ヘン跳馬《じ
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