ろい》も施《つ》けず、衣服《みなり》とても糸織の袷衣《あわせ》に友禅と紫繻子の腹合せの帯か何かでさして取繕いもせぬが、故意《わざ》とならぬ眺《ながめ》はまた格別なもので、火をくれて枝を撓《た》わめた作花《つくりばな》の厭味《いやみ》のある色の及ぶところでない。衣透姫《そとおりひめ》に小町の衣《ころも》を懸けたという文三の品題《みたて》は、それは惚《ほ》れた慾眼の贔負沙汰《ひいきざた》かも知れないが、とにもかくにも十人並優れて美くしい。坐舗へ這入りざまに文三と顔を見合わして莞然《にっこり》、チョイと会釈をして摺足《すりあし》でズーと火鉢の側《そば》まで参り、温藉《しとやか》に坐に着く。
お勢と顔を見合わせると文三は不思議にもガラリ気が変ッて、咽元《のどもと》まで込み上げた免職の二字を鵜呑《うの》みにして何|喰《く》わぬ顔色《がんしょく》、肚の裏《うち》で「もうすこし経《た》ッてから」
「母親《おっか》さん、咽が涸《かわ》いていけないから、お茶を一杯入れて下さいナ」
「アイヨ」
トいってお政は茶箪笥《ちゃだんす》を覗《のぞ》き、
「オヤオヤ茶碗が皆《みんな》汚れてる……鍋」
ト呼ばれ
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