狭《ところせ》きまで植駢《うえなら》べた艸花《くさばな》立樹《たちき》なぞが、詫《わび》し気に啼《な》く虫の音を包んで、黯黒《くらやみ》の中《うち》からヌッと半身を捉出《ぬきだ》して、硝子張《ガラスばり》の障子を漏れる火影《ほかげ》を受けているところは、家内《やうち》を覘《うかが》う曲者かと怪まれる……ザワザワと庭の樹立《こだち》を揉《も》む夜風の余りに顔を吹かれて、文三は慄然《ぶるぶる》と身震をして起揚《たちあが》り、居間へ這入《はい》ッて手探りで洋燈《ランプ》を点《とぼ》し、立膝《たてひざ》の上に両手を重ねて、何をともなく目守《みつめ》たまま暫《しば》らくは唯|茫然《ぼんやり》……不図手近かに在ッた薬鑵《やかん》の白湯《さゆ》を茶碗《ちゃわん》に汲取《くみと》りて、一息にグッと飲乾し、肘《ひじ》を枕《まくら》に横に倒れて、天井に円く映る洋燈《ランプ》の火燈《ほかげ》を目守めながら、莞爾《にっこ》と片頬《かたほ》に微笑《えみ》を含んだが、開《あい》た口が結ばって前歯が姿を隠すに連れ、何処《いずく》からともなくまた愁《うれい》の色が顔に顕《あら》われて参ッた。
「それはそうとどうしよう
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