けられた事も有ッたが、その頃はお政も左様《さよう》さネと生返事、何方《どっち》附かずに綾《あや》なして月日を送る内、お勢の甚《はなは》だ文三に親しむを見てお政も遂《つい》にその気になり、当今では孫兵衛が「ああ仲が好《よい》のは仕合わせなようなものの、両方とも若い者同志だからそうでもない心得違いが有ッてはならぬから、お前が始終|看張《みは》ッていなくッてはなりませぬぜ」といっても、お政は「ナアニ大丈夫ですよ、また些《ちっ》とやそッとの事なら有ッたッて好う御座んさアネ、到底《どうせ》早かれ晩《おそ》かれ一所にしようと思ッてるとこですものヲ」ト、ズット粋《すい》を通し顔でいるところゆえ、今文三の説話《はなし》を听《きい》て当惑をしたもその筈の事で。「お袋の申通り家《うち》を有《も》つようになれば到底《とうてい》妻《さい》を貰わずに置けますまいが、しかし気心も解らぬ者を無暗《むやみ》に貰うのは余りドットしませぬから、この縁談はまず辞《ことわ》ッてやろうかと思います」ト常に異《かわ》ッた文三の決心を聞いてお政は漸《ようや》く眉を開いて切《しき》りに点頭《うなず》き、「そうともネそうともネ、幾程《
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