住《ひとりずみ》の不自由をさせて置くも不孝の沙汰《さた》、今年の暮には東京《こっち》へ迎えて一家を成して、そうして……と思う旨《むね》を半分|報知《しら》せてやれば母親は大悦《おおよろこ》び、文三にはお勢という心宛《こころあて》が出来たことは知らぬが仏のような慈悲心から、「早く相応な者を宛《あて》がって初孫《ういまご》の顔を見たいとおもうは親の私としてもこうなれど、其地《そっち》へ往ッて一軒の家を成《なす》ようになれば家の大黒柱とて無くて叶《かな》わぬは妻、到底《どうせ》貰《もら》う事なら親類|某《なにがし》の次女お何《なに》どのは内端《うちば》で温順《おとなし》く器量も十人|并《なみ》で私には至極|機《き》に入ッたが、この娘《こ》を迎えて妻《さい》としては」と写真まで添えての相談に、文三はハット当惑の眉《まゆ》を顰《ひそ》めて、物の序《ついで》に云々《しかじか》と叔母のお政に話せばこれもまた当惑の躰《てい》。初めお勢が退塾して家に帰ッた頃「勇《いさみ》という嗣子《あととり》があッて見ればお勢は到底《どうせ》嫁に遣らなければならぬが、どうだ文三に配偶《めあわ》せては」と孫兵衛に相談をか
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