ラ鳶《とんび》が飛でますヨ」と知らぬ顔の半兵衛|模擬《もどき》、さればといって手を引けば、また意《こころ》あり気な色目遣い、トこうじらされて文三は些《ち》とウロが来たが、ともかくも触らば散ろうという下心の自《おのずか》ら素振りに現われるに「ハハア」と気が附て見れば嬉しく難有《ありがた》く辱《かたじ》けなく、罪も報《むくい》も忘れ果てて命もトントいらぬ顔付。臍《へそ》の下を住家として魂が何時の間にか有頂天外へ宿替をすれば、静かには坐ッてもいられず、ウロウロ座舗を徘徊《まごつ》いて、舌を吐たり肩を縮《すく》めたり思い出し笑いをしたり、又は変ぽうらいな手附きを為たりなど、よろずに瘋癲《きちがい》じみるまで喜びは喜んだが、しかしお勢の前ではいつも四角四面に喰いしばって猥褻《みだり》がましい挙動《ふるまい》はしない。尤《もっと》も曾《かつ》てじゃらくらが高じてどやぐやと成ッた時、今まで※[#「りっしんべん+喜」、第4水準2−12−73]《うれ》しそうに笑ッていた文三が俄かに両眼を閉じて静まり返えり何と言ッても口をきかぬので、お勢が笑らいながら「そんなに真面目《まじめ》にお成《なん》なさるとこう成
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