ツ英語の不審を質問する。質問してしまえばもはや用の無い筈《はず》だが、何かモジモジして交野《かたの》の鶉《うずら》を極めている。やがて差俯向いたままで鉛筆を玩弄《おもちゃ》にしながら
「アノー昨夕《ゆうべ》は貴君どうなすったの」
返答なし。
「何だか私が残酷だッて大変|憤《おこ》ッていらしったが、何が残酷ですの」
ト笑顔《えがお》を擡《もた》げて文三の顔を窺《のぞ》くと、文三は狼狽《あわて》て彼方《あちら》を向いてしまい
「大抵察していながらそんな事を」
「アラそれでも私にゃ何だか解りませんものヲ」
「解らなければ解らないでよう御座んす」
「オヤ可笑しな」
それから後は文三と差向いになる毎に、お勢は例の事を種にして乙《おつ》うからんだ水向け文句、やいのやいのと責め立てて、終《つい》には「仰しゃらぬとくすぐりますヨ」とまで迫ッたが、石地蔵と生れ付たしょうがには、情談のどさくさ紛れにチョックリチョイといって除《の》ける事の出来ない文三、然《しか》らばという口付からまず重くろしく折目正しく居すまッて、しかつべらしく思いのたけを言い出だそうとすれば、お勢はツイと彼方《あちら》を向いて「ア
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