縮《すく》める。
「オヤ誰方かと思ッたら文さん……淋《さみ》しくッてならないから些《ちっ》とお噺《はな》しにいらッしゃいな」
「エ多謝《ありがと》う、だがもう些《ちっ》と後《のち》にしましょう」
「何か御用が有るの」
「イヤ何も用はないが……」
「それじゃア宜《いい》じゃア有りませんか、ネーいらッしゃいヨ」
 文三は些《すこ》し躊躇《ためらっ》て梯子段を降果てお勢の子舎の入口まで参りは参ッたが、中《うち》へとては立入らず、唯|鵠立《たたずん》でいる。
「お這入《はいん》なさいな」
「エ、エー……」
 ト言ッたまま文三は尚《な》お鵠立《たたずん》でモジモジしている、何か這入りたくもあり這入りたくもなしといった様な容子《ようす》。
「何故《なぜ》貴君《あなた》、今夜に限ッてそう遠慮なさるの」
「デモ貴嬢《あなた》お一人ッきりじゃア……なんだか……」
「オヤマア貴君にも似合わない……アノ何時《いつ》か、気が弱くッちゃア主義の実行は到底覚束ないと仰《おっ》しゃッたのは何人《どなた》だッけ」
 ト※[#「虫+秦」、第4水準2−87−73]《しん》の首を斜《ななめ》に傾《か》しげて嫣然《えんぜん》
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