ゆるし》を受けたも同前……チョッ寧《いっ》そ打附《うちつ》けに……」ト思ッた事は屡々《しばしば》有ッたが、「イヤイヤ滅多な事を言出して取着かれぬ返答をされては」ト思い直してジット意馬《いば》の絆《たづな》を引緊《ひきし》め、藻《も》に住む虫の我から苦んでいた……これからが肝腎|要《かなめ》、回を改めて伺いましょう。

     第三回 余程|風変《ふうがわり》な恋の初峯入 下

 今年の仲の夏、或一|夜《や》、文三が散歩より帰ッて見れば、叔母のお政は夕暮より所用あッて出たまま未《ま》だ帰宅せず、下女のお鍋《なべ》も入湯にでも参ッたものか、これも留守、唯《ただ》お勢の子舎《へや》に而已《のみ》光明《あかり》が射《さ》している。文三|初《はじめ》は何心なく二階の梯子段《はしごだん》を二段三段|登《あが》ッたが、不図立止まり、何か切《しき》りに考えながら、一段降りてまた立止まり、また考えてまた降りる……俄《にわ》かに気を取直して、将《まさ》に再び二階へ登らんとする時、忽《たちま》ちお勢の子舎の中《うち》に声がして、
「誰方《どなた》」
 トいう。
「私《わたくし》」
 ト返答をして文三は肩を
前へ 次へ
全294ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング